2009年7月6日月曜日

『かんぼつちゃんのきおく』


昨日、紀伊国屋サンフランシスコ店で一週間前に予約していた本を取りに行った。
タイトルは、
『かんぼつちゃんのきおく』

レジで店員の男性に本のタイトルを尋ねられた際、
「『かんぼつちゃんのきおく』お願いします」
と言うのがなんとなくこっ恥ずかしかった私。
内心「なんでこんなヘンなタイトル付けんねん!」と、中高時代の同級生である著者を一瞬恨んでしまったが、
「著者は中島さなえです!」
と言うのが何だか誇らしかった。

「お会計、24ドル47セントになります」

日本ならば定価1400円で買える本なのだが、元級友の記念すべき処女作ともなれば安いもんだ。

彼女とはたまに彼女のブログのコメント欄で会話を交わす程度で、卒業以来会っていない。
風の噂で彼女のことを色々と聞いてはいたが、卒業してからの彼女の人生については殆ど知らない。
さてさて、彼女はあれからどんな人生をこれまでに歩んで来たのだろう。。。
と、駐車場に停めた車の中で早速このエッセイ本を開いた。

ところが。
中に綴られていたのは、なんとその殆どが彼女自身の中高時代と生まれ育った家庭内の記憶。

なんじゃこりゃ!?
やられた。。。

当時、今は亡き「2丁目劇場」(吉本若手漫才師の登竜門)にハマり、彼女の家に仲間同士で押し掛けてはお笑いのビデオやらホラー映画を鑑賞していた私達。(ちなみに私は当時、ジャリズム渡辺=今をときめく世界のナベアツのファンだった。個人的にはあの頃の方が好きなのだが)
中島家の人々、学校のイベント毎に彼女の企画で行われたコントの様子(確か私も一度ヤンキー役を仰せつかったことがある)、高校時代共に所属したオーケストラ部、通学路。。。
ネタにされているのはそんなことばかりだ。

学校ネタは殆どその場に居合わせていたのだから、共感どころの話ではない。
彼女曰く、「自分の脳内を占める7割方の記憶が小学校から高校までの記憶で、それらを昇華して新たな情報を入れる為に書いた」らしいのだが、御陰で忘れかけていた当時の記憶がドド〜ッと私の脳内に押し寄せ、一気に埋め尽くされてしまった。

昨日はアメリカ独立記念日で我が家も「花火が見たい」というチビ太を連れてイベントに繰り出していたのだが、イベントの待ち時間と帰りの大渋滞の車中、車内灯の下で最終章手前まで怒濤の勢いで読んだ。
一冊の本をこんなに早く読み終えたのは初めてだ。
最近ちょっぴり固めのノンフィクションものばかり読んでいて、脳が多少筋力アップしていたせいもあるのかもしれない。
最終章を読みながら床に就いたせいか、高校生の自分が教室内でクラスメイトとコントの打ち合わせをしている夢まで見てしまったではないか。。。
本の中で彼女は「大人になると明晰夢を見るのは難しい」と語っていたが、いきなりこれを見せつけられてしまった具合だ。

「こんな身内ネタが本になるなんて。。。」
と一瞬驚いたが、よくよく考えてみると彼女を取り巻く周囲の環境(家庭、学校、先生、クラスメイト)はある意味特殊だったのかもしれない。

当時、「あの小説家 中島らもさんの家に潜入出来る!」と胸躍らせて足を踏み入れたそこは、生き物の館。
家の壁は数多の水槽やらケージで埋め尽くされ、そこにはウーパールーパーやアロワナが漂い、アフリカ砂ネズミがガサゴソと音を立てている。(爬虫類も結構いたらしいが、爬虫類が苦手な私はそれらの水槽を避けていたので何がいたのかは記憶にない)
そして、何故か床一面に広げられた金網と、それでせっせと何かを作っている早苗さんの母みーさん。

「こんにちは〜。な、何を作られているんですか?」
と訊いてみると、
「うさぎ小屋作ってんねん!!」
とみーさん。
何だかとっても楽しそうだ。
ちなみに、うちの学校の参観日は保護者のお母様方はきちんと系スーツにハンドバッグの決めスタイルが一般的なのだが、みーさんだけは違った。
授業開始時間に一足(二足?)遅れて、ライダースーツで颯爽と登場。
「ども〜!ちぃーと遅れやした〜」ってノリの、かなりイカしたお母様なのだ。

子供部屋へと続く階段を上ると、段の立て板部分に何やら小さな貼り紙が貼られている。
目を細めて読んでみると、
「ジャダ(中島家の犬の名前)は二階へ上がってはならん!」
と書かれてある。
犬に貼り紙で訴えるって。。。
これもどうやらみーさんが書かれたらしい。

部屋の中は世界各国から集められたという楽器やら意味不明な物で溢れ返っている。
その中から早苗さんが嬉々と持って来たものは。。。
オウム真理教 麻原彰晃の歌のカセットテープ。
あの、「しょーこーしょーこー、しょこしょこしょーこ〜♪」ってやつだ。
なんでこんなもんが。。。と思いつつ、独特の旋律に洗脳されかけながら、「2丁目ワチャチャライブ」(吉本若手芸人のお笑いライブ番組)を熱心に鑑賞するという、色気もへったくれもない女子高生達のお泊まりごっこ。
このまま私達は二段ベッドで楽しく雑魚寝で夜を明かした。

ところが、事件が起きたのは明くる朝。
突然一階から「キャ〜!!」
というもの凄い叫び声が聞こえ、寝ぼけ眼を擦りながら急いで皆で駆け下りると、仲間の一人ハルちゃんがショックを隠しきれないでいる。
訊いてみると「トイレに入っていたら、らもさん(早苗さんの父)にドアを開けられ、無言で閉められた」というのだ。
普通、「あっ、ごめんごめん!」とか一言あってもいいところなのだが、そこが何と言ってもらもさん流だ。

「おはようございまーす」
朝のリビングに通されると、らもさんは何事も無かったように麦飯を食べていた。
独特のオーラを発しながら。。。

これが初めて中島邸にお邪魔した時の出来事だ。
中島邸のある宝塚の雲雀ヶ丘花屋敷には、イギリス帰りの帰国子女Nちゃんの家もあった。
お洒落なお母様が仕立てられたセンス溢れる英国スタイルのお宅に感動し、「私、この家の子になりたい」と本気で思ったけれど、中島邸には全く別の意味で感動した。
Nちゃん邸が「ずっと住みたいこんな家」なら、中島邸は「たまに行くならこんな家」だ。

そんな面白いお父様とお母様の下で育った早苗さんが書く本が面白くない訳がなく、
「フフフッ、フフフッ、ガハハッ!!」
と涙を流しながら爆笑する私を横目に、
「ちょっと、キモイで。。。」
と突っ込みを入れる運転席の夫。

未だに「数学のテストが解けなくて頭を抱える悪夢」に時々うなされていたのだが、この一冊が「中高時代の楽しかった思い出」に塗り替えてくれそうだ。


※タイトルの「かんぼつちゃん」という名前は、ある事故がきっかけで彼女の頭に出来た陥没が由来なのだそう。
確か、私も事故の話を3回位聞かされて触らせて貰ったことがあったっけ。。。

『かんぼつちゃんのきおく』

中島早苗さんのブログ
『特盛りさなえ丼』



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